List:と宝島染工① 夏の長崎。出会いと「実験」。

いろんな人に手にしてほしいものたち。宝島もそのひとつ。

宝島染工とは15年来の仲、「List:」オーナーの松井知子さん。

長崎の出島がすぐ目の前に見えるビルで、ギャラリーを営んでいます。故郷の長崎に戻ってきたのは、長く勤めていたインテリア雑貨の会社を辞めた16年ほど前。自分で店をするつもりはなかったのですが、出島の近くにあったカフェに通ううち、この「日新ビル」を見つけて。ほとんど直感的に「ここで店をしたい」と思いました。

すぐ目の前を路面電車が通る「日新ビル」。

大家さんからは最初「商売にならんばい」と断られましたが、どうしてもと交渉してお借りしました。確かにものすごく古い建物なのですが、北側の窓から柔らかな光が入ってきて、向いの建物にかかる影の表情が時間とともに変わる様も美しい。このビルと出会わなければ、店は開いていなかったかもしれません。

店名は、[List:]。直線的ですっきりとした印象の名前にしたかったんです。“:(コロン)”をつけたのは、「ここから先も、その人が好きなもの、“リストアップしたいもの”が増えますように」という……後付けですが、そういう願いを込めています。

店を始めた当初は、いわゆるセレクトショップでした。陶器に洋服にインテリア雑貨…扱うものが増える一方で、単にものを売るというよりも、そのものが生まれた背景や生み出す人のことも、もっと伝えたいという想いが強くなってきたし、実際にそうして作り手とつながりたいというお客さまも増えるように。友人の紹介で宝島染工と出会ったのも、ちょうどその頃です。

出会った当初の宝島染工は、今よりずっと…とっちらかっていました(笑)。アパレルの領域に収まらないもの…たとえば、ぬいぐるみとかタペストリーとか…とにかく何か新作ができるたびに、代表の(大籠)千春さんが「今回はこんなん作ってみたとよ!」って嬉々として見せてくれるんです。千春さんをはじめ、工房のみんながのびのびと楽しんでいる様子や、エネルギーがあふれているからこそのとっちらかり具合が、とにかくおもしろかった。

このおもしろさは、ただ商品を並べて売っても伝わらない。そう思って、洋服だけでなく他の表現者の人と一緒につくる企画展をしないかと提案しました。千春さんも「それならヘンテコなことがしたい!」とノッてくれて。互いを引き合わせてくれた友人の前田奈緒美さんも巻き込み、「染を纏う夏・夏の情景」という展示を企画しました。前田さんが撮影した長崎の藍・青の情景写真と、宝島染工の天然の藍染を空間いっぱいに展示しようと考えたのです。3人が感じた夏の長崎と、それぞれの藍色、前田さんが撮影してくれた大村湾の海の色や車窓から見た木々の緑の写真などなど、互いが感じていることをそれぞれの“表現”を介して会話しているようでした。

むせるほどに暑かった夏の長崎。3人で交わした会話。当時を思い出すと、今でもグッとくる。あの企画展は、今の[List:]のスタイルの原点です。

どちらかというと泥臭くて土臭いイメージだった天然染めや染め柄にも、自分自身でアレンジしたり、育てたりする楽しみがあるんだと、今のファッションが好きな人たちに伝えていく。宝島染工はそんなミッションを持っている会社だと、前々から感じています。

現在は、アパレルブランドとしての体制がかなり確立されてきた印象を受けますが、OEMの製品とオリジナルを大量に作りながらも、染め技術とアパレルとしてのアイテムの形が重なるところを実験しながら探っている感じなんかは、やっぱりすごく宝島らしい。「-thus-」シリーズが登場してきたあたりから、また初期の頃の実験的な部分が洗練されて戻ってきた印象もあり、新しい楽しみが増えてきています。

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