人生はダイブ。

この人だって思ったら、

ワーッて飛び込むの。

インドの産業と日本のアパレル業界をつなぐハッピーフェイス。代表の篠崎さんとの出会いは今から10年ほど前、「すごい人がいるから、会った方がいいよ」という知人の紹介がきっかけでした。

自分の人生の主導権は、自分が握るんだ。

(大籠) インドにしかない貴重な生地探しから縫製工場の手配まで、日本のアパレルメーカーがインドで仕事をする時は、ほとんど篠崎さんが関わっているんじゃないかな。「こういうこと、できるかな~?」と頭をひねるような内容でも、篠崎さんに相談するとだいたい大丈夫にしてくれる。今日はいろいろ聞きたいんだけど、まず、そもそもどうしてインドに?

(篠崎) 私は中学の頃から縄文時代が大好きで、世界史が始まったら世界の四大文明にもどっぷり。いつかはインダス文明やメソポタミア文明が生まれた国に行ってみたい。それなら輸入衣料会社からなら行けるかな?と思い、モード学園を卒業して民芸衣料や雑貨を扱う商社に入社して、直営の販売員になったんですね。そこで販売実績をあげて東京の本社に異動させてもらい、初めてインドに出張に行って…って、もう40年近く前の話かなぁ。ワクチンもたくさん打って、1人で行かされたなぁ。

(大籠) そのバイタリティーにいつも感心するのよ。インドでのビジネスは最初からうまくいったんですか?

(篠崎)インドはね、今もひとつ屋根の下、三世代、四世代の家族が一緒に暮らしていてね、みんな情に厚いし、おもてなしひとつにも優しさがある。基本はウソがつけない人たちだけど、できないことをできると言ってしまう問題もあって、苦労はずっとある。でもなぜか、それでも一緒に仕事をしたいと思う。それに不思議な縁でね、インドで最初に仕事をした人が、大阪万博のインド館でコンパニオンをしていた人で、私は中学生の頃その人にサインをもらってたの!彼は日本が大好きで、日本人にすごく助けられたこともあり、私が独立する時の相談にも、二つ返事で「協力するよ!」と言ってくれた。それからずーっと親友。

(大籠)すごい縁だ(笑)。篠崎さんは誰に対しても魂と魂でまっすぐつながってる感じがする。その感性がものすごい。子どもの頃からそうだった?

 

篠崎)私は1歳にもならん頃に病気して、それからずっと身体の右半身がうまく動かせないのね。それでも幼稚園まで働きもんの厳しいおばあちゃんに甘やかしなく育てられてん。だから子どもの頃から自立心が強くて感性も鍛えられた、その分早く大人になって働きたかったの。

(大籠)うんうん、想像できる。

(篠崎)でも、学校通うようになったら暗黒時代よ。いじめられるし、周りの人に助けを求めても話を聞いてくれなくてね。何のために自分は生まれてきたんやろ?と考えるようになった。そんなある日、このままじゃイヤだ、と。他人に人生の主導権を握られるよりも、自分が主導権を握るんだ、と思うようになったのね。それが中学2年の時。

(大籠)そこからは今のような行動力で突き進んできた、と。

(篠崎)そう。私、ハンデのお陰で乗り越えられるような知恵ももらえた。思えば、おばあちゃんにも「ハンデある上に性格悪かったらあかんから、いつも笑うとけ!」って言われてきた。それが今の社名のハッピーフェイスにつながってる。

とにかく相手に喜んでもらう。それが私の仕事のやり方。

(大籠)おばあちゃんに感謝だね。篠崎さんの仕事はアパレルの裏方的な仕事だけど、私はこの業界になくてはならない仕事だと思ってる。ただ、後継者的な人を育てるのが難しい気がするんだけど、どうです?

(篠崎)「この仕事がしたい」っていう人より、「この仕事の役割に参加したい」っていう調和的な人の方が向いているし、そういう人との縁を大切にしたいかな。働きたいという魂が似てる人ならどこかにいっぱいいると思うしね。

(大籠)よくわかる。そんな篠崎さんにビジネスのいろはを教えてもらえて良かったよ。篠崎さんみたいに仕事ができたらいいな、って、私ずっと思ってるのよね。

(篠崎)うれしいわぁ。初めて千春ちゃんに会った時、この子とは絶対に縄文時代からつながってる!と思ったからねえ。聞けば自分で染物をして洋服を作りよるって言うでしょ?染物って言うたら、インドでも体力のある男衆がやるような、ものすごく力のいる仕事。それを、この細っこい腕で?って。日本にもこんなドロドロになりながらMade in Japanの魅力を伝えようとしてる子がおるやなんて、それこそ私も何かの役割に参加したいって思ったんよ。

(大籠)インドの染め文化について教わったり、お客様を紹介してもらって同じテーブルで一緒に商談させてもらったり…あと、納期の交渉やスタッフとの具体的な話の詰め方なんかも、ものすごく勉強になったのね。何しろ篠崎さんはいつも、誰に対しても明るく前向きで、発言もすべて真っ当なのよ。

(篠崎)私と仕事をする人はみんな喜んでくれていると信じてる。これは昔からなんだけど、とにかく相手に先に儲けてもらう、仕事して良かったって喜んでもらう。それが私の仕事のやり方。それでお客さんの会社が大きくなっていくことが自慢でもあるわけ。そうすれば、自分も一緒に大きくなれる。

(大籠)そういうスタンスもいい。心がものすごく健康で、ゴム毬みたいにはずんでるんだよね。自分ではどうにもならない状況…たとえばコロナが招いた状況はどう受け止めてます?

 

(篠崎)大変な状況だったのは確かなんだけど、気づきも多かった。人間だけが奢りで生きていたらあかん。動物やいろんな生き物の環境も守りつつ、上手に足るべき環境で共存したいよね。また自由に海外に行けるようになったら、すぐインドに行って、仕事仲間にハグして、「コロナで何を学んだ?これからどうしたい?」って、考え方を訊いてみたい。

(大籠)人間の本質が浮き彫りになる状況だったからね。デジタルの時代になって、アパレルにもわけわかんないマーケットが生まれて、それで生業が成り立つくらいになったと思う。でも、私とか篠崎さんは直接会って、話を伝えて、つながっていたい派でしょ。洋服はやっぱりアナログだから。

(篠崎)そう、アパレルはデジタルって、ありえないよね。インドの地方の村にはまだ数千年も前から続く村に昔ながらの手仕事が残ってて、鳥肌立つくらいすばらしいの。でも、親子三代つないできた手仕事のありがたみを、孫の世代のグローバル化された若者は感じなくなってきたのが現実。私も手作業を残してほしいと願うけど、じゃあお前は何をしてくれる、となるでしょ。だから、できる限りこれからも手作業の営業をやるしかないよね。

人と人とをつなぐのが、仕事なのかもしれないね。

お話に引き込まれて気がつくと夜に。タイ料理店に移動

(大籠)地方のルートはどうやって開拓してます?

(篠崎)以前は本を見て行先を決めて、知らん相手でもワーッと飛び込んでいってた。私、人生はダイブだと思ってるから。意外と相手のふところまで入るのに抵抗ないし、私がダイブした人で、短い付き合いの人はいない。みんな仕事の魂が似てるからだろうな。

(大籠)私も長く付き合っていただいている方は多いけど、仕事に関してのアドバイスがなかなか腑に落ちないこともあって。ありがたいけど、私の正解じゃない、みたいな。篠崎さんはちょっと違ってて、こういうわけわかんないモヤモヤを聞いて「それなら考え方はこうだよ~」って、旗を降ってくれるのね、いっつも。

(篠崎)私と同じで、千春ちゃんも自分で「この人なら」と関わる人を選びたいねん。私の経験上、やりたいことを発信しれてば、同じ電波や波動でくっつく人がいるの。そうやって得たお客様はすごくありがたくてね、「この人だったら自分は損してもいい」と思える人なの。でも逆に私を儲けさせてくれたり、喜ばせてくれたりする。そういうもんかなーって最近、64歳で思うようになってきた。千春ちゃんもその1人。

(大籠)やっぱり人なんだね。木にネジをグルグルねじこんで、家具とか作るでしょ。そのうちネジは酸化して木にくっついて、抜けないの。木とネジが結合しちゃうのね。そのネジみたいに、人と人をつなぐのが仕事なのかもね。人と人がつながって、そこでキャッチボールして、うまくいけば10が100にも、それ以上にもなる。

(篠崎)うん、そうだと思う。「こういう人と仕事したいな」って真剣に願っていたら、絶対いつかそうなる。だから、そういう人としたい話ができるように、いつも準備しながら生きてないといけないよね。あと、自分の人生は自分とつながりたい仲間で回すんだ、っていう意思も大事よ。そういう意思は、つながる人たちにも自然に伝わると思う。

(大籠)篠崎さんにインドの話をきいてると、いつも「知らない人にご飯作ってもらった」とか、ささやかだけどハッピーなエピソードがいくつもあって、それがエネルギー源になってる気がする。インドからたくさんのものをもらってるんだね。

篠崎)山ほどもらってる。「なんでこの人、よく知らない私に優しいの?」とか「おもてなしのご飯ってなんておいしいの⁉」とか、小さな奇跡にものすごく気づけるようになった。インドで気づいたのは、どんなバイブルを読むよりも、ダイブして関わった人たちの感情に真実があったということ。インドは私のマザーカントリー。インドでエネルギーをチャージして、日本で放電してる感じかな。

(大籠)まわりの人にもそのいいエネルギーが感染するんだよ。私もそうやって、いい波動の人と長く仕事がしていけたらいいなぁ。私が仕事をする相手を選ぶというより、“続けていく”というコンセプトで共感し合える人と、いいマンチングがあればいい。

(篠崎)きっと大丈夫だよ。じつは、私のお客様に千春ちゃんのこと紹介したのね。「日本でインドのような手仕事をしてる若い女の子がいるから、インド製品とコラボしてみてください」って。インド製品に千春ちゃんの手染めを加えることで新たな個性が出て、商品もグレードアップすると思って。このつながりから、新たなつながりが広がっていったらうれしい。

(大籠)ありがとう!なんだか必要なことがわかった気がする。あ、でもそういえば私、篠崎さんとインドに行く機会をずっと逃してるんです。それをまず実行したい。ガイドブックのインドじゃなくて、篠崎さんが見ているインドが見たい!

(篠崎)それはもう、最初はお腹こわす覚悟でね(笑)。あと、行くべき時だっていう、いいタイミングが絶対にあるから、その時一緒に行きましょうよ。インドのいい文化が残ってるうちにね、みんなで行こう!

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