List:と宝島染工② 流れる時、変わる街と、私たち。

形あるものは、変わる。宝島の洋服も。だから、愛おしい。

 

「List:」オーナーの松井知子さん

宝島染工がきっかけで天然染の洋服を初めて手にした、買ったという方が、たくさんいらっしゃいます。私もその1人です。

4、5年前の企画展で、なぜか、センターギャザーのワンピースがすごく売れたんですね。今でも長崎の街を歩いているとよく見かけますし、そのワンピースを着た人同士が偶然出会って……なんて話もあったほど。長崎は決して大きな街ではないのに、皆さんそれぞれにあのワンピースを自由に、いろんなコーディネートで着こなしていらして、それがすごくすてきだと思うんです。

私は「天然染が特別なもの」だから、宝島染工のアイテムを選んでほしいわけではありません。もちろん、お客さまは店内に並ぶアイテムが天然染だという前提でいらっしゃるのですが、見ているうちにそういうことは忘れているんじゃないかな。

たまたま「いいな」と思うものが天然染めだったら、その人は、たとえ“もの”を手に入れなかったとしても、天然染と出合った喜びは手に入れることができる。そうやって自分だけの喜びや楽しみを見つけていただく瞬間を、私は何より大事にしたい。自分自身この仕事を続ける中で、そういう瞬間をたくさん経験してきましたから。[List:]は何かを売る場ではなく、何かを感じられる場でありたいと思っています。

宝島染工の服もそう。私が初めて買った定番のシャツは、着るほどに生地も色味もどんどん柔らかく、こなれていきました。長く着続けているとこんな風に生地の色や質感が変わるんですよ、ってところをぜひ見てほしいから、企画展には必ず店に飾っています。

陶器や木の家具にとって経年美はひとつの価値なんだけど、なぜか洋服は「時が経って色が変わった=価値が下がった」としか捉えられないことが多くて、それがとても残念。着続けていると、ものすごく味わい深い色になる。そんな天然染の洋服の楽しみを、私は宝島に教えてもらいました。

再開発に伴い、長崎の街もどんどん変わりつつあります。この「日新ビル」も、いつかはなくなる。これはもう、決まっていることです。

一方で、[List:]の企画展も、すでに2年くらい先まで予定が決まっています。紹介したい作家さんを新しく増やすというよりも、馴染みの作家さんやブランドがどんなふうに変化していくのかを、長い目で楽しみたいんですよね。今は「日新ビル」という「場」に残されている時間の中で、これまで関わってきた人やものの魅力をどう表現しようかと考え続けています。

1つひとつの企画展=表現をとおして、愛おしい「日新ビル」の日々の風景を記録して、出島の近くにこういう場があったという記憶とともに残しておきたい。もちろん、その記録しておきたい風景の中には宝島染工も入っていて、千春さんや工房の皆さんとまた面白いことができたらいいな。次の企画展を心待ちにしているファンの方も多いので、企む時間もまた楽しいのです。

 

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