いつかまた、一緒につくろう。いつかは決めずに、心地いいタイミングで。
ミシンのステッチで絵を描く〈Nutel〉の渡邊笑理さん。宝島染工の大籠千春とは友人であり、アーティスト同士でもあり、2019年には台湾でコラボレーション作品『染線花』を発表。それぞれの日々にもいい影響を与え合うふたりの、これまでとこれから。
大籠 笑理ちゃんと出会ったのは5年くらい前かな。パタンナーの川間さん(共通の友人)の紹介で、東京の展示会に来てくれたやろ、ひとりで。スカートが破れとって、それをバッチみたいなので留めとって。「そのバッチかわいいね」って言ったら、「あ~、ただ破れてるだけ」ってあっけらかんとしてて。
Nutel いつもそんな感じです(笑)……私はあの時、初めて宝島染工の洋服を見たんだけど、すごくモダンな感じがしたよ。それまでは、藍染とか板染めとか絞りとか、洋服になった時に古く感じてしまう印象があったんだけど、宝島も千春さんの表現する洋服も、伝統的な技術を使っているのに、まったく古くなくて、すごくいいなと。
大籠 当時の笑理ちゃん、作家活動し始めたばかりで、「どういうふうに仕事をしてったらいいか分からない」って悩んでた。「じゃあミーティングしよう!」って、川間さんが言い出して、よく3人でモーニング食べながらミーティングしたよね。
Nutel めちゃくちゃ心強かった!川間さんは右も左も分からない私をマネージャーのように導いてくれたし、2年前に川間さんが病気で亡くなった時、今度は千春さんが「私がマネージャーを引き継ぐ」なんて言ってくれて。今も2人にどっぷり甘えています。私たちは彼女を失っちゃったけど、ずっと一緒にいる感じ。友達って時間の長さじゃないんだな。
大籠 私は笑理ちゃんの作品、詩的で私的な感じがすごくいいなって思うんだよね。自分の中にある原風景をミシンで描くっていうスタイルが、まずおもしろい。ミシンでステッチするだけで、ちょっと物語性が出るし、形状も化けるでしょ。ステッチは布だけじゃなくて紙にもできるし、仕立てたら立体にもなる。どうにでももっていけるっていうのは、笑理ちゃんならではの表現方法だよね。
Nutel ありがとう。コラボしたのが2019年かぁ、一緒に台湾に行ったよね。
大籠 当時、台湾の茶藝店から宝島に「展示をしませんか」ってアプローチがあってさ、笑理ちゃんに「台湾に打合せに行くけど、行く?」って聞いたら「行く行く!」と。で、現地で茶藝店のオーナーに笑理ちゃんを紹介したらすごく気に入ってくれて、コラボで作ったものと宝島のアイテムを織り交ぜて展示をするアイデアが出たんだよね。
Nutel 私も好奇心旺盛やから、「おもしろそう!」「やりたい!」って話に乗っかってねえ。まさか後々生みの苦しみがあるとは思いもせずに(笑)。で、制作に入る前に、まずは宝島染工で10日間の合宿もさせてもらったじゃない。
▲宝島染工がある福岡県大木町の風景
大籠 そうそう。うちに住み込みで、一緒に生活しながら生地を染めたり、久留米の絣屋さんにいって他の生地を選んだり。「色どうする?」とか「紙を使うのもありじゃない?」とか、とにかく四六時中ずーっと話をしてたなぁ。
大籠 笑理ちゃんのモチーフは植物が多いから、そこにうちの草木染が乗っていくのって、すごく相性がいいんだよ。アイデアは簡単に出るんだけど、だからこそ何色で行くかが大事で、最初は何色からスタートしようかと考えあぐねてたんだよね。で、なんかのタイミングで決めたんだよ、「一発目だから強い色……藍で行こう!」って。
Nutel そうだったね。あの時は、千春さんの地元の素材を使いたいなと思ってたから、できるだけいろんな場所に足を運んでイメージをふくらませたかったんだ。あちこち連れて行ってくれたおかげで、現場の空気を肌で感じられた。それがとても良かったよ。
大籠 行く先々でアイデアが湧いたよね。
Nutel 染めの体験や、絣の作り手さんとの会話も、全部作品のイメージにつながるからね。ただ、東京に戻ってきて小さなオブジェ作りから少しずつ手を動かし始めるんだけど、一番の大作……大判のストールにひと針を落とすまでには、やっぱりものすごく時間がかかった。
大籠 生地が大きすぎたとか?
Nutel いや、単に大きさだけの問題じゃなくて。これまでも膨大な量の生地を手にしてきたけれど、千春さんが染める生地ってパワーがあるというか、なんだろう……なんか、感じるものがあって、その上に私の表現をどう描いていったらいいか……頭の中にふくらんだ膨大なイメージをまとめるまでに、時間がかかった感じかな。でも、一度絵が決まったら作業は早いんだよ、私。ただコラボの時は、それはもう柔らかい綿ガーゼだったから、扱いも難しくてね。ステッチにめちゃくちゃ神経を使った(笑)。それだけに仕上がりはめちゃくちゃ気に入ってるよ。
大籠 私は作家さんとコラボする機会って少なくてね。私がベースを作って相手に投げたり、相手からベースになるものが送られてきたり、一緒に話をしつつ全然違うことをしながら進めたり……形式もそれぞれなんだけど、作家さんとの話し合いをベースにしつつ、いつもと違うことにトライしてる感じ。笑理ちゃんとのコラボはまた新鮮で、いい経験だったな。またいつかコラボやりたいね。
Nutel うん、もちろん。私にとって草木染とのコラボはまだまだ序章で、挑戦したいことがたくさんあるんだよ。インテリアや空間演出なんかもおもしろそう。〈Nutel〉の活動をビジネスにもしなきゃなんですけど、コラボはなんか、仕事とはまた違う感覚っていうか。日々の中に一緒に何かをするきっかけがあって、作品が生まれてったらいいね。
大籠 ちょっとした所在確認の延長だよね。「元気?」「最近どう?」「ちょっと今ヒマなんだけど、なんかつくる?」って、そういう流れがいい。次はいつかくるけど、いつとは決めない。その時々、互いに言葉の投げ合いをしながら決めていけたらいいな。
Nutel うんうん、心地いいタイミングっていうのかな。何も決めない中で、いつかまたコラボをやることだけは決まってる。これって、めちゃ楽しい!作ったものは伝えたいし、たくさんの人に届けたい気持ちもあるけど、それ以前に自分たちがめっちゃ楽しんでるっていう。こんな贅沢な話ないよね。