幼いころからずっと、

わたしの日常には

布があり、染めがあった。

布を染めて、商品にする。量産と手仕事の魅力を掛け合わせて独自のものづくりに取り組む宝島染工。テキスタイル企画の西さんは、従来のルールにとらわれない発想で新しい染色表現を模索する。彼女がどのようにしてこの世界に身を置いたのか、話をきいた。

布にのった色や柄は、空間や気分をガラッと変えるパワーがある。

わが家では草木染めや藍染がいつも身近にありました。というのも、私の母は染色の仕事をしていて、作品をつくったり、教室を開いて染め方を教えたりしていたんです。だから、「服が汚れたなら染めちゃおう!」「夏だからそろそろ藍染めしよう~」「玉ねぎの皮は染めに使うからとっといてね~」っていう会話は当たり前。初めてのゆかたも母が染めてくれた生地で作ってもらいました。もちろん私が初めて藍で布を染めたのも、母に教えてもらいながらでした。

幼い私にとって藍染は、実験に近い感覚のおもしろさがありました。黄色だった色がだんだん青に変わっていったり、輪ゴムで絞ったところがまあるい柄になったり…なんで色がどんどん変わるんだろう?どうしてこういう柄ができるんだろう?って、ものすごく不思議でいつもワクワクしていた記憶があります。母の話では、保育園の七夕の短冊に「染め物屋さんになりたい」と書いていたそう。でもそれは多分、他のお仕事を知らなかっただけだと思います(笑)。

高校は美術系の学校に進み、グラフィックデザインを専攻しました。授業でシルクスクリーンプリントを学んだとき、紙ではなく布にプリントするとこんなにも全然違った見え方、存在になるんだ!とわかり、衝撃を受けました。同じ版画の技術なのに、布という素材に色や形がのると、空間や気分をガラッと変えてしまう。そんなテキスタイルのパワーみたいものに圧倒されたんです。色を重ねて染めていく行為自体もすごく楽しかったし。大学にはテキスタイル学科という専門的な学科があると知り、ぜひそこに進みたいと思いました。

進学先は、マリメッコでもデザインをなさったテキスタイルデザイナーの鈴木マサルさんも教えていらっしゃる大学でした。日本でマリメッコをはじめとする北欧のテキスタイルが話題になったのは、ちょうど私が大学受験を考えていた頃。その時も、やっぱり感動したんです。1枚の布にさまざまな色や大きな柄があふれてる!カラフルで、なんてテキスタイルって楽しいんだろう!って。そして、その布はテーブルクロスになったりタペストリーになったり…と、形を自在に変えながら、色や柄と生活との距離をどんどん近くしてくれる。テキスタイルデザインの世界には、洋服とはまた違う布の可能性があるように感じていました。

大学に入ると、染物や織物など、とにかく自分の手の中から何かを生み出す作業が好きで、自然と民藝の作品や美意識に興味を持つようにもなりました。民芸運動にも携わっていた染色工芸家の芹沢銈介さんに師事なさった柚木沙弥郎さんは、日本を代表する染色家の方であり私にとっては神様のような方。作品を展示なさっているギャラリーに行って、ご本人とお話しさせていただいたとき、ほほ笑みながら「染色、楽しいでしょう?」っておっしゃって──本当に、この言葉に染色の魅力が集約されていると思うんです。

民芸運動の作品や考え方にふれるうちに、一点物の作品だと高価な工芸品っぽくなってちょっと手が届きにくいけれど、量産の中で生じる個体差なら手仕事のおもしろさをもっと多くの人の暮らしに届けられるんだなぁ、と教えてもらった気がします。

もともと私が好きなテキスタイルは手仕事のあとが少しでも見えるような作品ばかり。たとえば、均一にムラなく模様を染め上げるキレイなプリントもいいのですが、私がグッとくるのは版が少しズレていたり、重なり過ぎていたり…チラッとでも手仕事のあとが残る仕上がりでした

民芸の作品を観ながら、ものすごく漠然とですが、量産向きのプリントに少しでも手仕事の味を残せたらいいな、そんな味わい深い色や柄を、テキスタイルを通して生活の中に取り入れられたらいいな、と思うようになりました。大事に飾られるタイプの作品ではなく、生活の様々なシーンで使われながら、その中でさらに味わいを増すようなものの美しさに今でも惹かれます。

宝島で知った、量産と手仕事の良さを両立させるおもしろさ、難しさ。

ご縁があって宝島染工に入社して、今年で3年目になります。就職活動をしていた頃は自分がどのような働き方をしたいのか、私が働きたいと思える場所がどこにあるのかまったくわからず、悩んだ時期も長かったんです。宝島に入社する前も、とにかく少しでもいいから手を動かして染めることだけは続けたいと思っていました。

ところが、そんな予想を軽く上回るほど、宝島では人の手によるものづくりを大切にする会社でした。私も入社1年目から藍染やムラ染め、板締めなど、本当にいろいろな技術に挑戦させてもらいました。まさか、これほどたくさんの手仕事に挑戦させてもらえるなんて!と今も嬉しく思っています。

宝島の染めは、量産していくことと手仕事の良さを両立させているところがとてもおもしろく、だからこその難しさも感じています。私は柄の商品に関わらせてもらう機会が多く、ある程度決められた範囲の中で、手や見た目の感覚的なものを頼りにしながら個体差を出していきます。その感覚的な部分を他のスタッフともうまくすり合せながら量産にのせていかなくてはなりませんから、技術力と同じくらいコミュニケーションが大事なんですね。1人では完結できないからこそ、みんなでたくさん話し合い、様々な数値を何度も確認しながら作業を進めています。息を合わせるのって難しいけど、みんなの宝島への愛情、仕事への想いが感じられるから大変とは思いません。ものすごくいい現場なんです。

宝島の柄染めは、板染めやムラ染めなど、基本的にすごく伝統的な技法で染めています。昔からある伝統的な技術で見た目に新しいものを作るというのが、宝島のスタイル。だからこそ、私は「手でやる意味がある柄を作る」ことを大切にしたいと思っています。

たとえば、束子でこすったり、霧吹きで染める液を吹き付けたり…シンプルな手法だけど工夫次第でまた新しい柄が生まれる──みんなで、あれも使える、これも使えそう…と話し合う中で私の発想も広がっていく感じです。

今、天然染料でシルクスクリーンを使ったプリントをやったり、私が大学時代にやっていた糊を使った防染を宝島らしく使っておもしろいものができないか考えたり、みんなで話し合っています。いろんなやり方があっていい。ルールはなくていいんだと思えるようになりました。

大学ではあまり天然染色をしてこなかったので、就職前は天然染色や絞り染めなどは母のジャンルという感覚でいました。でも、最近は久々に会うと2人で染色の話ばかりしています。互いに気になる染め布の写真を見せ合って、どうやって染めているのか議論することもしょっちゅう(笑)。すっかり母の仕事と近いことを仕事にしている自分がいて、気がついたらもろに母の影響を受けていたんだなと思います。

(後編につづく)

宝島と日々カテゴリーの記事