「なぜこうなるのか」、

知りたいから試す、何度でも。

想像を超えるまで。

 

スウェーデンと日本を中心に縫製や染色などの手仕事から生まれる服飾やテキスタイルアートを制作し、伝統工芸や手仕事の価値を伝える平田章悟さん。宝島染工のデザインワークにも刺激を与えてくれる研ぎ澄まされた感性、ものづくりへの真摯な姿勢はどのように育まれ今に至ったのか、話をうかがいました。

 

宝島染工との出会いについて。

 

宝島染工との出会いはたしか2016年の夏。スウェーデン・日本のクラフトエクスチェンジプロジェクト(Intertradition2016-2018)を立ち上げるべく、八女市の下川織物を訪れた際に紹介していただいたことがきっかけでした。

初めて出会った千春さんは、職人よりも作家、意志が強いけれども柔軟な人という印象。今もまったく変わっていません。とても感覚が鋭く、常に色々なモノ・コトを見て自身をアップデートする、その感覚は誰よりも若く、ついていくことはなかなか至難の業ですが(笑)、一緒にものづくりをするたびにとてもやりがいを感じています。

千春さんをはじめ、九州でものづくりに携わっている方々はとてもオープンで驚きました。競合になり得る同士でも横の繋がりをとても大切にしている。だから、ここから国内外を超えて新たな工芸品や出会いが生まれているんでしょう。田んぼが広がるのどかな町で、今も多種多様な手工芸が産業として共生していることには感動すら覚えました。

 

平田さんが手工芸に興味を持ったきっかけは。

 

染色、手機織り、スクリーンプリントなど、テキスタイル手工芸全般を学びたいと思いスウェーデンに移住したのが2012年です。それまでは4、5年ほどグラフィックデザイナーとして広告制作会社で働いていました。ある程度の経験を積んで次のアクションを起こしたいと考えた時、思い悩んだ末にずっと興味があった服装の世界へ行こうと決心しました。

ただ、「ザ・ファッション」じゃなく、生地や素材を一から手で作ることを学びたいという思いが強かった。その道を探す中でスウェーデン留学の経験がある作家の方々と知り合い、その方々の佇まいに惹かれたこともあってスウェーデンの小さな島にある手工芸学校に入学しました。自分の手で一からじっくり何かを生み出すという選択は、広告や販促媒体の制作スピードの反動だったのかもしれません。

 

スウェーデンに拠点を移して、どんな変化がありましたか。

 

今年で移住して10年、生活スタイルや考え方が大きく変わりました。日本で働いていた時 は、1に仕事、2に仕事、3に仕事という無茶な生活を送っていました。そのころはほぼ 毎日夕食が12時回ってましたね。笑 今は、歳を重ねたこと・家族が増えたこともあっ て今は17時には家に帰り、ちゃんとご飯作ってます。 

もう1つ海外に出て大きく変わったことは日本への興味、特に手工芸や伝統への興味がとても強くなったことです。他国へのアウトソーシングに頼って国内から多くの手工芸が消えてしまった欧州と比べると、日本は国内に多くの手工芸が産業として生きて存在しています。こうして自分が生まれた土地の文化を俯瞰から見られたことは、海外で得た1つの大きな財産です。

 

創作の原点とは何でしょうか。

 

「なぜこうなるのか」を常に知りたいと思う欲求です。世の中の仕組みやシステムがどんどん複雑化・スピード化し、色々なモノ・コトを理解せず、またその時間もないまま行動せざるを得ないことが当たり前になる中で、それに反して素材を自然から集めたり、一から混ぜ合わせたり、時間をかけて何度も試行することでなぜこうなるかを理解する。それが創作の原点です。

そしてその先には、自分の想像力を超える表現を作りたいという願望が常にあります。そのために重要なのは、想像力に頼りすぎないこと。試行錯誤する工程の中で現れる「これだ!」と思える表現に出会うために、様々な素材や手法でテストを繰り返し、多くの偶然を作り出すことです。

グラフィックデザインやアナログ写真の技法を交差させて模索する伝統的な手法の再構築は、自分が持つ表現技術の垣根を超えて新しい表現を生み出そうとする工程でもあり、自身の重要な創作の軸となっています。

 

テキスタイルで表現できることとその他で表現できることに違いはありますか。

 

作家としての自身の作品は、テキスタイルと紙が主な媒体です。テキスタイルは綿・麻の植物繊維(セルロース)を使うことがほとんどで、紙もその意味ではテキスタイルの一部と考えています。テキスタイルでも紙でも原素材や組織によって全く表情が異なり、これらを達成したい表現・目的によってテストを繰り返しながら使い分けています。

自分の中で、グラフィックデザインは100%に近くコントロールしながら作るもの。一方、テキスタイルや紙を使った作家活動はその対に位置していて、大体50%コントロールして残り半分は素材に委ねるイメージです。

たとえば、異なる組織・素材の繊維を同じ藍染で染めても染まり方や結果は全く異なります。創作過程の中で頭に在るイメージを良い意味で裏切ってくれる。それがテキスタイルを使った創作活動の楽しいところですね。

 

創作活動や作品を通して伝えたいこととは。

 

自分がこれだと思う、言葉にできない視覚的な感覚です。少数でも他の誰かがそれに共感して何かを感じ取ってもらえればうれしい。宝島染工にも、感覚的にわかるけれど、視覚的にはまだ見えないものを常に追い求めている感じがあって、自分の創作活動と共通するところです。

人種差別や戦争など人が生み出す多くの問題に対する問いかけを反映したいと思うこともありますが、創作の原点は純粋に自分が良いと思う視覚的な表現を作りたいという想い。それがブレないように心がけています。社会的に価値があるかないかよりも、自分が心の底から素直にやりたいことをやればいいし、その考え方も時間と共に変化していいと考えています。

 

宝島染工のロゴデザインについて。

 

色々な方向を巡り巡って、元々あったロゴを再構築した形になりました。辿り着くまでに今までとは違う多くの表現を試しましたが、このプロセスがとても大事でした。「宝島染工とは?」という根本的な問いかけをしてその答えを具現化させるなかで、やっぱりこの方向・表現で間違ってなかったと再確認でき、より鮮明なイメージを作ることができました。

また、パッと見てわかりづらい微細な色設定やフォントの統一と間の取り方など、一貫し た世界観を作るのに重要な土台作りを進めています。今後少しずつ、着実に、宝島染工の 力強いイメージが構築されていくのを肌と目で感じていただければと思っています。 

 

 

今後も宝島染工で一緒に新しいことができたら。さて、何をしましょうか?

 

グラフィックデザイナーとして宝島染工の刺激ある表現を作っていくことはもちろんです が、作家としても千春さんと共に日本・スウェーデン間で作品づくりを進めています。 12月に、まずスウェーデン・ストックホルムで二人展「SiraKura しらくら」を展示・発表 します。千春さんが持つ多くの知識、技術や経験と、自分がスウェーデンを拠点として活動する中で得た知識や考え方をクロスさせた文化交換的なプロジェクト。来年、日本の皆 さんにもお見せできることを楽しみにしています。 

 

 

 

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