kiitos 大山真司さん 大山愛子さん(前編)

おいしさに、まっすぐ。
胸張って楽しく、
とことん、こだわる。

2024年2月、宝島染工からカカオ染めによる新しいコレクションがデビュー。クリエーションのきっかけになったのは、鹿児島県鹿屋市に構えるビーントゥバーのチョコレートの製造工房〈kiitos〉との出会いでした。2023年12月に完成した新しいショップ兼工房を訪ね、代表の大山真司さん・愛子さん夫妻に開業までのストーリーを教えていただきました。

──〈kiitos〉がある鹿屋市はどういう街でしょうか。

【真司さん】鹿屋は鹿児島市と宮崎県都城市のちょうど中間あたりにある小さな地方都市です。この市内に小学校・中学校・高校があって、高校を卒業したら多くの若者は大きな都市で就職したり進学したり、一度外に出るんです。

でも、それぞれが都市でいろいろな仕事やカルチャーを吸収した後、またここに戻ってきて自分たちらしい試みにチャレンジしてる。だから、とても感度がいいショップや施設が集まっています。

僕は鹿屋で生まれて鹿児島市で育ち、2011年に帰郷しました。その時に障がい者の就労継続を支援するNPO法人「Lanka」を開業。メンバーたちは地域の方々から受けた色々な仕事を通して社会参加をしています。

ただ、昔からずっと、障がいがどうこうっていう枠を飛び越えて、もっとみんなが楽しく誇りを持って働けたらいいなって思って、自社ブランドのものづくりに踏みきったんです。

【愛子さん】パンや焼き菓子をつくろうという案もあったんですが、私たちが大好きなチョコレートレートがいいんじゃないかって。チョコレートってみんなもワクワクしますよね。

【真司さん】そうして2017年に〈kiitos〉を立ち上げました。〈kiitos〉はフィンランド語で「ありがとう」という意味です。僕らが作っているのは、カカオ豆の焙煎からチョコレートになるまでの全工程を自分たちで行う、“ビーントゥバー(been to bar)”のチョコレート。

2023年12月には新しいショップと工房がオープンしました。まだまだ規模は小さいですけど、地元でいいものを作ろうとしている方々と応援し合いながら、『メイド・イン・鹿児島』のチョコレートを発信していけたらと思っています。

──とにかくどの工程も仕事がとても丁寧なのが印象的です。

【愛子さん】ビーントゥバーの仕事は確かに手間もかかるし大変なんだけど、じつは様々な作業に細分化ができて、メンバーそれぞれの強みを活かすことができるんです。

試行錯誤を繰り返す中で、紙を折る仕事、アルミでチョコを包む仕事、包装の後ろにラベルシールを貼ってスタンプを押す仕事……と、どんどんメンバーの能力が活かせる工程が増えていきました。

【真司さん】豆の選別はどうすればいいか、紙はどう折ったらいいか……1つひとつの仕事のより良いやり方を、担当メンバーが繰り返し考えながらやっています。

うれしいことに、うちで焙煎したカカオ豆やチョコレートはプロのパティシエや海外のショコラティエからも高い評価をいただいていて、メンバーの自信につながっています。作業工程を話すと「そこまでやらなくてもいいんじゃない⁉」と驚かれますが、「そこまでやる」のが〈kiitos〉。

おいしさにまっすぐ、とことんこだわって作る。だからこのクォリティが保てるんです。

──包装紙やショップバックのイラストもメンバーの作品ですね。

【真司さん】「Lanka」では週に1回アートの時間を設けていて、わりとはやい段階で、メンバーの作品をチョコレートのパッケージやショップバックのイラストにしようって決めました。そうすると、絵を描かなかったメンバーまでどんどん描くようになって。

今では、カカオ豆の原産国や豆の特徴、チョコレートの味を伝えただけで、率先して絵を描いてくれるメンバーが増えて、使う作品も彼らが話し合いながら決めています。

【真司さん】技術を覚えるまでに時間はかかるし、慣れないうちは失敗や衝突もありました。それでも反省しながらみんなでいいものを作ろうと力を合わせてきたから、今の〈kiitos〉がある。みんなが自分の仕事として、責任と誇りを持ってチョコレートづくりに取り組んでいます。

家族の方から聞いた話では、以前は「作業に行ってくる」と言って家を出ていたメンバーが、今は「仕事に行ってくる!」と言っているそうです。

──みなさんの表情からも誇りを持って仕事をなさっているのがわかります。

【真司さん】みんなすごくカッコいいんですよ。だから、彼らが彼らのままカッコよく生きていける、そのための選択肢が増えたらいいなって思うんですよね。僕は20年以上ずっと福祉の仕事に携わっているけど、僕にしてみたら福祉の「福」って幸福の「福」なんです。幸せになるための選択肢って、誰にとっても多い方がいいですもんね。

時々「あんたはエライね」とか「スゴイね」なんて美化してほめられることがあるんだけども、なんもエライことしてないし、スゴクもない。カッコいい彼らの手伝いをしてるだけなんです。

【真司さん】〈kiitos〉を語るときにも障がいが云々って声高に言うつもりは全然なくって。「ここ鹿児島で、カッコいい仲間と、胸を張っておいしいって言えるチョコレートを作ってます」って。シンプルにそれだけで十分勝負できると思ってます。

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