まだまだ、ぜんぜん。
もっとずっと遠くまで
私たち、飛んでいける。
宝島染工2025年のコレクションから、強力なサポーターとしてデザイナーの藤内裕司さんが参加しました。
新しくデザイナーを迎えることによって、染は、デザインは、どう変わっていくのか?代表の大籠と藤内さん、そして宝島染工の服を設立当初から見続けてきた[List:]のオーナー・松井知子さんの対話から紐解きます。
※[List:]オーナー・松井知子さん(※宝島と日々vol.1前半) (※宝島と日々vol.1後半) 松井さんはオンラインで参加
(松井) 宝島染工のデザイナーに藤内さんが就任するって知った時、ちょっと驚きました。
というのも、ファッション業界において新しいデザイナーが参加するっていうのはなかなかセンセーショナルな話題で、宝島染工がどう変わるのか気になるファンの方も多いだろうなって。
(大籠) 結論から言うと……宝島染工、変わります!
変わっていきます、いい方向にね。
もちろん、私が宝島染工から退くことはないし、むしろ、藤内さんに入ってもらってこれからますます染に力を入れていけると思う。定番ラインはほとんど変わりません。
大きく変わるのは1年ごとに発表するコレクションで、分かりやすく言うと私はテキスタイル部門に専念して、デザイン部門を藤内さんにお任せする感じかな。
(松井)外部のプロフェッショナルにデザインを託そうとしたのには、何らかの理由があったと思うんだけど?
(大籠) 最初、宝島染工の服は私がデザインのラフ画を描いて、友人をはじめいろいろなパタンナーさんにパターンを引いてもらっていたのね。
でも、私はデザインのプロではないので、いざ形になってみるとゴテゴテし過ぎてるし、全然値段に釣り合ってるように見えなくて。他の人にデザインを任せるようになって、ようやくちゃんとした服になってきたーって。そう思えるようになったのが5年ほど前かな。
ただ、私の中にはブランドを起ち上げてからずっと「きれいな服」をつくりたいっていうキーワードがあって。染ありきで、デザインし過ぎなくて、デザイナーが看板にならない、きれいな服。
そろそろそっちにシフトする時期かな、デザイン誰に頼もうかな、と考えた時に思い浮かんだのが藤内さんだったの。
初めて一緒に仕事をしたのは13年ほど前?

宝島と日々vol.3 より
(藤内) そう、僕がMHL.で藍染のTシャツを作る時に、テキスタイルくろの城島さん(※宝島と日々vol.3参照)に紹介してもらったんですよね。
「染なら面白い人がいるよ」って。
当時僕はMHL.で企画からコラボの商談、デザイン、生産ラインの管理まで、すべての業務をほぼ一人でやっていたので、仕事の全貌は大籠さんにも見えてなかったと思うんだけど、たぶんあの頃の仕事のやり方を見て今回声をかけてくださったのかな、と。
(大籠) そうそう。藤内さんがデザインのプロフェッショナルだってことはよく知っていたから。
でもね、今思えばそれは藤内さんのほんの一部。
こうして話している時はグッとこらえてクールなんだけど、本当はものすごくハングリーな人なの(笑)。
(松井) そんなハングリーな藤内さんと初めて組んだ1年目のコレクション、やり終えた時の二人の感想は?
(大籠)いいものはできたけど、
「私たち、まだまだぜんぜんやれるよね!」って感じ。
何しろ1年目は「きれいな服」というキーワードはあったものの、染もデザインも並行で進めていったから、互いが持っている考えや可能性を探り合う感じで。
(藤内) 大籠さんからもらったイメージ画像を僕がどう読み解くか、みたいなやり取りを重ねましたよね。
きれいな服っていっても縫製とか仕立てとか言い出したらキリがないんだけど、会話から感じる大籠さんの「きれい」はそういうのとは全然違ってて、僕の解釈で言うと「気をつかった服」なんです。
人の手と目がきちんと入った服っていうのかな。たとえば「ここは切りっぱなしが見えないようにきちんと収めてほしい」とか「染や洗い加工の時にパンクしないように」とか。
結局それは着心地の良さや長く着続けていった時に生まれる表情につながる話で、端々の会話をかみ砕いていくうちに「そうか、染に合った美しいデザインをすればいいのか」と腑に落ちました。
(大籠) そそ、この仕様じゃなきゃイヤだ、このデザインじゃなきゃダメってこだわりは、私にはあんまないし、ない方がいいと思ってるんです。ただ、洗って出てくるムラとか染の特性上でてくる要素が、かわいい要素になるっていうのは前提なんだけどね。
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(松井) 染の色や柄って均一ではないし、そこがまた魅力じゃない? それだけにデザインも難しいんじゃないかと思うんですけど、どうでしたか、藤内さん。「思ってたのとちがう!」とかありませんでしたか?
(藤内) もちろんありました。デザインをスタートさせる時点で、僕は染の仕上がりのニュアンスなんて、まったくわからなかったから、上がってきたサンプルを見て「こうなったか!」という驚きはありました。
同時に「こうなるなら、こう」っていう調整方法も見えてきて。こうしてフィックスできる速度が少しずつ速くなってくると、もっと納得いくものが増えていく自信があります。
大籠さんの言葉のベースにある感覚も、染の手法も分かってきたので、それを踏まえてもうちょっと大胆な提案ができるかなって。年を重ねるごとに面白くなりそうだなと思っています。
(大籠) ですよね。じつは次のテキスタイルミーティングももう始まってて。
定番を先にスタートさせつつ、今持ってる生地を見直しながら「これおもしろいから柄乗っけてください」とか「これは色変えてください」とか、藤内さんからのアイデアも盛り込みつついろんなネタを仕込み始めています。
持っているものを活かすみたいな。デザイン要素も新しく入れるというよりは、どんどんそぎ落としていって、もっと振り切る方向で。
(藤内) カッティングが混み入り過ぎたとか、ディテールを多くし過ぎたとか……もっと良くできる構想はもう頭の中にあって。仕上がりを見るとステッチも多過ぎない服の方がいいなって。そこは次につなげたいな。
(大籠) 型数ももっと減らしていきたいかな。今でもアパレルとしては決して多くはないんだけど、一着一着がもっと際立った方がいいと思うんだよね。定番もあるんだし、コレクションのテイストは甘いか辛いかの両極だけでいい。
(藤内) もっとシンプルに、将来的にはできるだけ縫い目がない中で、縛るとか留めるとか、絞るとか結ぶとか……
そういうちょっとした仕掛けで雰囲気が変わる方向に持ってった方がいいんじゃないかって話になりましたよね。
僕はそこが新しい宝島染工のブランドコンセプトのひとつになるような気がしています。
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(松井) 新しいコンセプトの中で、これから宝島染工の染ってどんなふうに変わっていくんだろう? というのもね、宝島染工の服を購入する方には、その人の中で「この染を纏いたい!」っていう、染と気持ちが合致する瞬間があるんです。
「この柄と、この色と、このにじみを纏って変わりたい!」みたいな感覚。それだけ宝島染工の染は染料も手法も様々だし、多彩な染の表情を楽しみにしているファンも多いと思うんだ。
(藤内) むしろ、これからますます染の魅力をダイレクトに感じていただけるようになると思います。僕から見ると、今までがちゃんとした服過ぎたんですよね。誰かが作ったちゃんとした服に、大籠さんの染がのっかってる、そんなイメージ。
僕が本当にやってほしいのは、もっと大籠さん自身が出るような服なんです。大籠さんの染や柄をできる限り邪魔しない美しいカッティングや仕立て──そこを考えるのがデザイナーである僕の仕事かなって。
(松井) 藤内さんにしか出せない染の表現がありそうですね。
(藤内) 個人的に、大籠さんの染の魅力はコンサートの舞台衣装とか、宝島倉庫のフロントに掛かっているでっかい布とかにある気がしていて、あの迫力や美しさを服でも表現できる可能性を十分に持っている。
だから、僕がデザインでそこまで持っていこうと思っています。多分、デザイン画を描くだけの人にはできない仕事です、正直言うと。
(大籠) プロフェッショナルだからね、藤内さんは。私と染とデザインという要素を、ブランドとして俯瞰で見られる人。
だから、これからは柄をもっと強くしてもいけるなっていう感じがしています。たとえば、手染めとかは一つのパターンが大きくて、大味になりがちなのね。
どうしても和的や民藝的に見えたりして、ちょっと垢抜けないなってところがあるんだけど、形がよくて素材がよければモードに見えるじゃない? 藤内さんが入ることで、宝島にはきっとそういう強みが生まれるから、もっと大きい柄や宝島らしいひねりが効いたテキスタイルを、染の仕込みを踏まえた上できちんと服にしていけると思う。
(藤内) 世の中には流行りに乗って売れるものをつくるブランドもあるけど、宝島染工の立ち位置はそうじゃない。完全に大籠さんのパーソナルなブランドだと僕は思ってます。
もっとパーソナルに、もっときれいに、もっと強くできる。大籠さんはデザイナーが大事だと言ってくれるけど、僕とか関係なくて。正直、大籠さん100%の服であればいいんです。海外でももっと発展できるブランドなんだから。
(大籠) そうね、ちょっとこそばゆいけど、確かに。今まではたぶん自分で想像できる範囲内だけの服しかつくれていなかったけど、それじゃだめだなとずっとどこかで思ってきたから。
もっとでっかく振りかぶるには、今がちょうどいいタイミングだと思っています。
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(藤内) ブランドって映画づくりに似ていて、宝島染工の場合は監督・ディレクターが大籠さん。
で、監督の頭の中のイメージを形にするチームの中に、デザイナーである僕やパタンナーや工場の縫製スタッフ……
もういろんなプロフェッショナルが横並びで存在していて、一人ひとりがそれぞれの分野で120%の力を発揮して、みんなで宝島染工の服という役者や芝居を創り上げていくんです。
だから僕は、大籠さんの染とか主義を理解してくれるパタンナーや工場をこれからどんどんセットしていって、みんなに大籠さんの方を向いて仕事をしてもらおうと思ってます。
(松井) 映画づくりに似ているって話、すごくいいですね! 新しい何かが始まったり変わっていったりする様って、見ていてゾクゾクするようなエネルギーを感じるけど、今がまさにその時なんだね。
(藤内) そう感じてもらえたらうれしいですね。僕はパタンナーや工場の人にも年に何回か宝島染工がある大木町に来てもらって、ミーティングしたいんですよ。
大籠さんに会って、ここの染め場を見て、このまちを見て、この土地の食べ物を食べて。そうして何かを感じ取っていくうちに、パターンも縫製も全然変わってくる。デザインの世界にはそういうことがいっぱいあるんですよ!
(大籠) いいね、ぜひ来てほしい! なんていうか、洋服という形だけが答えじゃないっていうのかな。最終的には形なんだけど、変わっていく本質はそこじゃないんですよね。
私はこれからも同じスタンスで染という球を投げ続けるけど、藤内さんが入ることでもっと遠くまで投げられる!って思うのね。
今までのファンの皆さんにはもちろん、これまで染に興味がなかった人や、ハイブランドを選んでいた人にも「宝島、おもしろくね?」って思えてもらえるような──そういう遠くて高いところにだって、ぴょこんと飛んでいける気がしてる。
うん、やっぱりそうだ。私たち、まだまだぜんぜんできますね!